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研究室について(最終更新:2024年8月)

2022年4月1日付で徳島大学大学院社会産業理工学研究部に着任し,2023年度以降卒業研究や大学院生の指導を担当する可能性もある.いずれにせよ,ゼミでどのようなことをやるのかぼんやりと想像出来るほうがゼミを選択する際に役立つことも多いかと思うので,自分の研究室ではどのようなことをやるのか,あるいはどのようなことを求めていくのかを簡単にまとめてみようかと思う.ただし,その時々で多少の考え方の変化もあるかと思うので,ここに記載しているのは2022年4月時点での考えであることをここに明記しておく.

※2022年度後期より,「技術英語基礎2」において,プレゼミという形で卒業研究の指導を開始しました.以下,各年度の学生数を記載しておきます.

  • 2022年度:3年生1名
  • 2023年度:4年生1名,3年生:3名
  • 2024年度:M1:1名,4年生:3名,3年生:未定(2024年度後期に決定)

私の専門は,離散微分幾何です.非常にざっくり言うと,微分幾何学とはその名の通り微分を用いた幾何学のことで,主に「曲率」と呼ばれる曲線や曲面,あるいはより抽象的な幾何的対象の曲がり具合を調べる研究分野のことを指します(これには限りませんが,個人的に関心を持っているのがこれなので,ここではそれに限定しています).その一方で,コンピュータサイエンスや関連諸分野の発展とともに,従来の微分幾何研究をそのまま適用することが出来ないことも多くなってきており,微分幾何を離散的な土台のもとで再整備・再構築する研究が近年活発に行われています.私は,まさにそうしたものを取り扱っています.

私の研究室では,曲線や曲面の微分幾何や離散微分幾何に関する内容を扱います.必ずしもこうした内容に限らず,多様体論やリーマン幾何など,もう少し抽象的な内容でも構いませんし,曲線と曲面の微分幾何や離散微分幾何の諸分野への応用に関わる内容にも興味があるので,そうした内容を一緒に勉強してくれる学生も歓迎します.また,本学理工学部数理科学コースには,微分幾何学・幾何解析を専門とする國川慶太先生もいます(2023年4月より).学部で勉強する内容であれば専門性にそこまでの差は現れませんが,希望の進路や勉強したい内容によっては色々と話し合う必要があるかと思います.いずれにせよ,私の研究室への配属に興味がある場合は事前に面談してください

研究とは関係なく,性格の合う合わないも重要な要素かもしれないので,私の性格についても少しだけ述べておきます.学生さんに発表してもらう際に余計なことを言われるのは好きではありませんが,基本的にお喋りは好きです.それもあってか,所属している学生さんも基本的に話すのが好きな学生さんが多い気がします.会話を通して理解できることもあるので,コミュニケーションは重要であると考えています.

研究分野の違い以外でこの研究室の特徴を述べると,私自身や周辺の研究者の方々のもとに外国人研究者の方々が割と多く訪れるので,英語で講演を聞いたり(成果発表に限らず)会話する機会は通常よりも多いと思います.そういう機会を得たいのであれば合うのかもしれません.ただし,外国人研究者の方と話してみたいというだけであれば,必ずしも私の研究室に所属しなくとも,外国人研究者の方々と一緒にお茶したり食事に行けばよいかと思います.単に専門的なことだけでなく,多様な考え方に触れることで,大いに刺激を受ける機会は多いです.

卒業研究では主に,曲線と曲面の微分幾何に関係する教科書を1冊ちゃんと読み終える,あるいはちゃんと切りのいいところまで読み終えることを目標とします.そのうえで,何かしらのソフトウェアを用いて自分で絵が描けるようになってもらえるとなお良いです.ただしソフトウェア(あるいは数式処理システム)と言っても,MATLABやMathematica,Mapleのような有償のものではなく(決して安い買い物ではないので,無理に購入する必要はないです),GeoGebraやMaximaといった無償のものを使えれば十分です.

具体的な内容に話を移す前に,卒業研究に取り組むにあたって,私から学生の皆さんに期待することを先に記述しておきます.

※分からないことは分からないとはっきりと伝える努力をする

多くの学生は,分からないというと怒られると勘違いしがちですが,少なくとも数学・数理科学の卒業研究では,分からないことは分からないと伝えてもらえれば,注意されるということはありません.むしろ分かったふりをすると注意されることが多いです.ただし,明らかな準備・努力不足の場合はこれに限りません.

理解できないことは恥ずかしいことではなく,むしろ分からないことが分かるようになることで,大いに成長するチャンスが得られると考えてよいです.個人的な経験では,苦労して得られた知識はずっと印象に残っていることが多いです.

なお,自分が教科書等を読んだり人の話を聞いて内容をなんとなく理解できることと,人に説明できるレベルにまで理解できることとの間には大きな隔たりがあるので,予習の段階でどのように説明するのかを推敲し,発表してくれることを期待しています.少なくとも

自分が聞いて退屈なプレゼンは,他の人が聞いても退屈である

ということは心に留めておきましょう.入念な準備を積み重ねることは,プレゼンの能力を身に付けるための第一歩となります.

具体的な内容に話を移します.日本語で書かれた教科書であれば,例えば以下のような教科書があります(順不同.思いついた順に記載しています).

  • 小林昭七著「曲線と曲面の微分幾何」(英訳版有り)
  • 梅原雅顕・山田光太郎著「曲線と曲面ー微分幾何的アプローチ-」(英訳版有り)
  • 小磯憲史著「変分問題」
  • 中内信光著「じっくり学ぶ曲線と曲面ー微分幾何学初歩ー」
  • 小林真平著「曲面とベクトル解析」
  • 田崎博之著「曲線・曲面の微分幾何」
  • 古畑仁著「曲面 -幾何学基礎講義-」

ここまでは曲線と曲面の微分幾何の一般的な教科書で,一般論や具体的な例についても紹介されています.そのうえで,より具体的な例が紹介されるなど,それぞれの本によって特徴が分かれるのが面白いです.いずれの本でも,1冊通して読めば,曲線と曲面の微分幾何の基礎が身に付きます.

より発展的な内容であれば,和書では例えば以下があります.大学院進学を検討している皆さんは,まずは上記の教科書のうち一冊でも読破してから下記の教科書を読むことをお勧めします.

  • 剱持勝衛著「曲面論講義 平均曲率一定曲面入門」(日本語版は売ってないかも,英訳有)
  • Callahan著,樋口三郎訳「時空の幾何学 特殊および一般相対論の数学的基礎」
  • 井ノ口順一著「曲線とソリトン」
  • 井ノ口順一著「曲面と可積分系」
  • 川上裕・藤森祥一著「極小曲面論入門」
  • 宮岡礼子著「極小曲面」
  • 梅原雅顕・佐治健太郎・山田光太郎著「特異点をもつ曲線と曲面の微分幾何学」

曲線と曲面の微分幾何以外では,多様体論の教科書を読むのも選択肢としてあります.ただし,位相空間論の知識がなければ,通して読むのは難しいかもしれません.教科書の候補としては以下のようなものがあります.

  • 松本幸夫著「多様体の基礎」
  • 小松彦三郎著「ベクトル解析と多様体」
  • Spivak著,齋藤正彦訳「多変数の解析学 ――古典理論への現代的アプローチ」
  • 塩谷隆著「重点解説基礎微分幾何」(紙媒体は分かりませんが,今でも電子版が入手可能なようです)

また,大学院進学を考えている場合は英語の教科書を読むことも推奨します.例えば以下の教科書が挙げられます.

  • Pinkall, Gross著「Differential Geometry: From Elastic Curves to Willmore Surfaces」(無料でダウンロードできます!!)
  • Do Carmo著「Differential Geometry of Curves and Surfaces」
  • Eisnenhart著「A Treatise on Differential Geometry of Curves and Surfaces」

その他にも優れた教科書は色々とあるので,自分で図書館等で目を通して,読みたい教科書を提案してくれても構いません.ただし,読むのが難しい,あるいは卒業研究のテーマとしてはふさわしくない(ただの微分積分や線形代数の教科書など)と判断した場合は別の教科書を勧める可能性はあるのでご注意ください.難しいか否か判断できない場合,聞いてもらえれば回答します.また勉強したい内容が私の専門から大きく離れるもの(例えば代数学や解析学)であれば,別の研究室を勧める可能性もあります.

なお,本研究室では学部卒で就職を希望する方はもちろん,大学院進学を希望される方も歓迎します.大学院に進学することで,より専門的な内容を勉強したり,プレゼンの修練を積むことで得られるスキルもあるかと思います.また専修免許取得の取得や,特に高校教員を目指している学生さんは,学部の勉強だけでは不十分なことも多いので,大学院進学を積極的に検討することをお勧めします.ただし,あくまでもお勧めしているだけで,強制ではないのであしからず.

前述の通り,皆さんの関心と私の関心が大きくかけ離れている場合を除いて,大学院進学は歓迎です.大きく異なる場合は,他の研究室や他大学の大学院進学を勧めることにしています.大学院に進学される多くの人にとっては,この博士前期課程(あるいは修士課程)と呼ばれる2年間の課程のみに進学されるかと思います.博士前期課程のあとに3年間の博士後期課程と呼ばれるより専門的な研究に取り組む課程もありますが,そちらは後述します.

大学院に進学するためには,ちゃんと大学を卒業し,大学院入試に合格することが必須です.微分積分,線形代数以外の内容を身に付けておくに越したことはありませんが(微分積分や線形代数を完全に理解することは非常に大変です),この2つに加えて卒業研究で取り扱う内容をきちんと理解出来ていれば,あとはやる気次第で何とかなります.学内外問わず大学院に進学を希望される場合,必ず事前に相談してください.大学の方針等により事情は変わりますが,少なくとも私の場合,たとえ自分の学生であったとしても,事前相談なしに大学院生を受け入れることはありません

博士前期課程で指導教官として私を希望される場合,曲線と曲面の微分幾何,あるいは離散微分幾何の研究に携わっていただくことになります.博士前期課程では,教科書だけでなく論文を読んでもらうことになります.必ずしも既存の教科書に書かれているとは限らない最先端の数学研究に触れ,自分で正しく理解することが主たる目標です.その中で新たに得た知見や,論文とは異なる自分なりの新たな解釈,あるいは新しく得た結果を論文にまとめるのが博士前期課程での目標です.新しい結果が出れば,どこかの雑誌に論文を投稿する可能性もあります(ただし,査読と呼ばれる審査にあたるものがあります).どのような論文を読むかは,皆さんの取り組んでいる内容に応じて決めますが,出来る限り自分で提案することを期待しています.

学部の頃と大きく異なるのは,英語で教科書や論文を読んだり,セミナーや研究集会などに積極的に参加し,他の方々の講演を聞く,あるいは自身が発表するという経験を通して,より自発的に学ぶ(あるいは研究する)点にあるかと思います.自発的に他の方に自分をアピールする努力も当然必要ですが,何か新しい結果を得たあと講演したいという希望があれば,そうした機会を設けられるように最大限協力します.興味のある問題を自分で探し,解決する(あるいは解決を目指す)ことが大学院と学部の最大の違いです.

ここまではさも難しいことに取り組まなければならないかのように書いてきましたが,必ずしもそうではありません.学部を卒業した時点で教員免許を取得しているのであれば中学高校等で非常勤講師をしながら,あるいは他のアルバイトをしながら大学院に通うことも可能です.私自身も大学院生のときは予備校でアルバイトしながら研究していました.研究する時間を確保することも大事ですが,研究以外の経験も積むことで,多様な考え方を身に付けてほしいと考えています.

博士後期課程で指導教官として私を希望される場合,基本的には離散微分幾何,あるいはそれらの関連研究に携わっていただくことになるかと思います.今後のキャリア形成の観点から,(長期でも短期でも構わないので)留学を検討してもらうかもしれません.そのための資金獲得等は出来る限り協力します(一番有名なのは日本学術振興会.他にも最近はJSTなど色々と大学院生の経済支援が増えています).海外で研究経験があると,どのような進路を選択するとしても,少なからずプラスに働くこともあります.自身の研究活動の中で得られた研究成果を論文にまとめて出版したり,成果を(日本語,英語の両方で)発表してもらいます.詳細は,博士後期課程に進学を希望される学生の方が出てくれば個別にお伝えします.

一点だけ述べておきます.数学関係で博士後期課程への進学を希望される方の多くはアカデミア(大学,高専等)の研究者を目指されていることが多いですが,近年,数学関係の博士(後期)課程修了後の進路は実に多様化しています.博士課程に進学したからといっても必ずしもアカデミアの研究者にならなければならないというわけでは決してないので,企業で働くという選択肢にも目を向けてほしいです.企業側が求めるスキルや能力等も分からずに数学の研究だけしていれば会社で働けるなどということはあり得ませんし,アカデミアで職が見つけられないから仕方なく企業で就職するという気持ちであれば話になりませんが(相手の立場になり,自分がそのような人材を雇用したいかを考えましょう.そのような人材は要らないです),適切にインターンシップに参加するなどして情報を収集すれば,数学・数理科学関係の学生には実に広範な選択肢があることが分かります.

博士後期課程への進学に興味がある場合,(指導教員に限らず)周りの人に相談することをお勧めします.